ヘッジファンド界の大物Ray Dalio(レイ・ダリオ)氏(写真:Wikipedia)は、現代が歴史的な転換点にあり、「債務の蓄積」「社会の分断」「地政学的な緊張」「通貨制度の崩壊」という4つの大きな力が同時に作用し、歴史を転換させる「崩壊」に直面していると論じています。しかし、これは避けられない運命ではなく、歴史の教訓を学び、賢明に行動することで乗り越えられるとしています。
Dalio氏の主張は、常に首尾一貫しています。以下に、主要な論点と、そこから得られる教訓・提言をまとめました。
レイ・ダリオ氏の主張
Dalio氏は、歴史的に繰り返される4つの大きなサイクルが、現代において同時に重大な局面を迎えていると主張しています。
1. 債務サイクルとその崩壊
- 信用の創造と崩壊: 経済の楽観期に、個人も政府も返済能力を超えて借入を行います。この借入は当初、投資や需要を刺激し、資産価格を押し上げますが、やがて債務が所得や生産性の伸びを上回ると、その返済が経済の重荷となります。
- 金融政策の限界: 債務問題が深刻化すると、中央銀行は金利を引き下げ、量的緩和(QE)によって市場に資金を供給します(2025年現在の米国と日本の現状)。しかし、これらの政策は短期的な安定しかもたらさず、資産バブルや格差拡大といった新たなリスクを生み出します。
- 痛みを伴うデレバレッジ(債務削減): 最終的に信用が収縮し始めると、資産売却や歳出削減を伴う、長くて痛みを伴う「デレバレッジ」の期間に入ります。これにより所得は減少し、失業が増加します(間近に迫っている未来)。
2. 国内の社会的な分断
- 信頼の侵食: 経済的な格差や政治的な機能不全が続くと、社会における信頼が失われます。特に、システムが公正であるという信頼が揺らぐと、「社会契約」が崩壊し始めます。
- 対立と麻痺: 国民は共通の目標を見失い、富裕層と貧困層、都市と地方、右派と左派といった形で分断されます。政治は妥協点を失い、イデオロギーの対立が激化することで、国全体が麻痺状態に陥り、実質的な問題に対処できなくなります。
- 対外的な脆弱性: 国内の対立は、国の対外的な競争力や対応力を著しく低下させます。国内が分裂していると、ライバル国はその弱みを利用し、同盟国は不安になり、敵対国は大胆になります。
3. 地政学的なデカップリング(分離)
- グローバル化の終焉: かつて世界の貿易や資本の流れを支えていた国家間の「信頼」が崩壊し、相互利益に基づくグローバル化モデルが崩れつつあります。
- 競合ブロックへの分裂: 世界は統合から、西側諸国と中国・ロシアを中心とする競合ブロック(BRICs)へと分裂しています。この「デカップリング」は、サプライチェーン、金融システム、テクノロジー、軍事などあらゆる領域で進行しています。
- 安全保障の優先: 企業や政府は、効率性よりも供給の安全性を重視し、製造拠点を国内(リショアリング)や同盟国(フレンドショアリング)に移しています。半導体やレアアースなど、戦略的に重要な物資の管理が最優先課題となっています。
4. 通貨システムの崩壊
- 信認に基づくシステム: 現在の金本位制ではないfiat通貨(法定通貨・不換紙幣)システムは、その価値が安定しているという「信認」に基づいています。この「信認」が揺らぎ始めると、システム全体が崩壊に向かいます。信頼が臨界点を超えて失われたとき、これまで水面下で進行していた問題が「突然」表面化し、経済システム全体が機能不全に陥ります。この変化は段階的ではなく、一気に訪れると警告しています。
- 基軸通貨のサイクル: 歴史上、基軸通貨を持つ国は、その特権的な地位を濫用し、生産を上回る消費や過剰な借入を行うことで、やがて衰退に向かいます(2025年現在の米国)。
- ドル離れの動き: 現在の米ドルを中心としたシステムも、米国の巨額な財政赤字や債務のマネタイゼーションにより、その「信認」が試されています。金融制裁(資産凍結など)の多用は、他国がドルへの依存を減らし、自国通貨での決済や金現物(physical gold)の保有、代替的な決済システムの構築を加速させる誘因となっています。
教訓と提言
Ray Dalio氏は、この危機的な状況に対し、破局を避けて未来を築くためのいくつかの原則を提示しています。
- 歴史のサイクルを認識する: 現在起きていることは、歴史上何度も繰り返されてきたパターンです。歴史を学び、サイクルを理解することで、崩壊が避けられなくなる前に行動を起こすことができます。
- リスクと機会のバランスを取る: リスクだけを見て麻痺するのでもなく、機会だけを見て無謀になるのでもなく、両者のバランスを取ることが重要です。そのための最も信頼できるツールが、資産クラス、国、通貨などにまたがる「分散」です。
- 不確実性への備え: 未来を正確に予測することは不可能であるため、特定のシナリオに賭けるのではなく、様々な結果に対応できるような、しなやかで適応力のあるシステムを構築するべきです。
- 信頼の再構築と共通の目標: 国内の分断を乗り越えるには、強力なリーダーシップと、国民が共通の目的意識を取り戻すことが不可欠です。制度が一部の権力者だけでなく、全ての人のために機能していることを示し、信頼を回復する必要があります。
- 未来の設計者になる: この歴史的な転換点を、単なる「被害者」として受け止めるのではなく、より良い未来を築く「設計者」として主体的に乗り越えることができます。賢明で協調的なリーダーシップのもと、責任を持って準備し、断固として行動する者が、次の時代を形作るでしょう。