この番組は、大国の安全保障上のニーズと小国の主権のバランスをどう取るかという難問について、ジェフリー・サックス氏とジョン・ミアシャイマー氏が議論したものです。
司会のGlenn Diesen教授はまず、ロシアや米国のような大国に隣接する小国(例:キューバ、ウクライナ)が、自衛のために別の大国を招き入れると、隣接する大国にとって「存立に関わる脅威」となり、深刻な紛争を引き起こすというジレンマを提示します。この問題の解決策として「安全保障圏(Sphere of Security)」という概念が提案されます。動画再生回数は、1日で26万回以上。(画像は、左側:ジョン・ミアシャイマー氏、右側:ジェフリー・サックス氏のスクリーンショット)
分析概要
サックス氏の主張:「安全保障圏」の提案 🙋🏻♂️
先に発言したサックス氏は、ミアシャイマー氏の現実主義的な大国政治の分析(ウクライナや米中関係の予測)を高く評価しつつ、核戦争による「相互絶滅」の危険性を最大の懸念点として挙げます。サックス氏の提案する「安全保障圏(Sphere of Security)」は、従来の「勢力圏(Sphere of Influence)」とは異なります。
- 勢力圏(Influence): ある大国が他国の内政や経済を支配・干渉すること(例:セオドア・ルーズベルト大統領の「棍棒外交:Big Stick Diplomacy」)。サックス氏が否定する概念です。
- 安全保障圏(Security): 大国が、互いの近隣地域(裏庭)において、ミサイルシステムや軍事基地といった軍事的な脅威を配置しないことを相互に尊重するルールです。
この「安全保障圏」は、あくまで軍事的な緩衝地帯であり、経済的・政治的な関係を制限するものではありません。例えば、ウクライナがEUに加盟することや、他国と自由に貿易することは問題ないとしています。
ミアシャイマー氏の反論:現実主義の「悲劇」😐
ミアシャイマー氏は、サックス氏の規範的な目標(核戦争の回避)や、NATOのウクライナへの拡大が破滅的な過ちであったという点には同意します。しかし、サックス氏が提唱する「安全保障圏」の実現可能性については、現実主義の立場から懐疑的な見解を示します。ミアシャイマー氏の理論では、世界は「安全保障のジレンマ」(自国の安全を高める行為が、他国の安全を脅かす)に基づくゼロサムゲームであり 、大国は「勢力圏(Influence)」を求めて競争します。サックス氏の「安全保障の不可分性」(他を犠牲にして自国の安全は高められない)という理想 は、この現実を乗り越えられないと指摘します。
ミアシャイマー氏は、主に3つの問題点を挙げます。- 境界の曖昧さ: 「安全保障圏」の地理的境界を定義することは困難です。米国の西半球やロシアの東欧は明確かもしれませんが、中国の東アジアにおける範囲はどこまでか、合意は困難です。
- 競争の波及: アフリカや中東など、明確な「圏外」での大国間競争は続きます。その競争が「安全保障圏」に波及し、結局は相互干渉を伴う「勢力圏」の争いに戻ってしまう可能性が高いと指摘します。
- 不信と不確実性: この構想は、大国間の「相互安全保障」の合意に依存しますが、国際政治にはそれを強制する上位権力(世界政府)が存在しません。国家の意図は不確実であり(例:トランプの登場)、国力も変化します(例:中国の台頭)。そのため、各国は最悪の事態(相手は「タカ派」)を想定して行動せざるを得ず、合意は破綻しやすいと論じます。