David Linチャンネルの、Fitch Ratingsの北米銀行部門統括マネージング・ディレクターChristopher Wolfe(クリストファー・ウルフ)氏へのインタビューを分析しました。(動画再生回数は、1時間で1000回以上)

このインタビューの核心的なテーマは、2025年の米国新政権下で進む銀行規制の緩和、いわゆる「振り子の揺れ戻し(Pendulum Swing)」が、米国の銀行システムにどのような影響を与えるかという点です。格付機関Fitch Ratingsの専門家クリストファー・ウルフ氏は、規制は強化と緩和の間を揺れ動くものだとしつつも、現状は2008年の金融危機につながるようなリスクの蓄積には至っていないと結論付けています。(画像はスクリーンショット)

(上のアイコンにリンク先動画)

分析概要

規制緩和への「振り子の揺れ戻し」

インタビューの最大の論点は、バイデン政権下で強化が予想されていた銀行規制が、トランプ政権下で一転して緩和方向へ大きく舵を切ったことです。

具体的な緩和策:

資本規制(補完的レバレッジ比率の緩和など)、消費者保護、気候変動リスクへの対応、そして暗号資産(仮想通貨)に対する姿勢の軟化 など、多岐にわたる分野で規制緩和が進められています。

格付けへの影響:

ウルフ氏は、この規制緩和が銀行のリスク許容度に見合わない資本バッファーの低下につながる場合、銀行の信用格付けに対して「概ねネガティブ」な影響を与える可能性があると指摘しています 。十分な自己資本こそが、銀行がパンデミックなどのストレスを乗り越えられた要因だからです。

現在の主要なリスク評価

ウルフ氏は、現在銀行セクターが直面している主要なリスクについて、以下のように評価しています。

商業用不動産(CRE)*リスク:

昨年は懸念材料でしたが、現在ではそのリスクは「減少し始めている」との見方を示しました。問題はすでに特定され、損失引当金も積まれており、ハイブリッドワークの見直しによるオフィス需要の回復も見られるため、「バックミラー問題」*になりつつあると述べています。

*Commercial Real Estate

*過去のデータ(バックミラー)だけを見ていては、将来の予期せぬリスク(前方の状況)を見過ごしてしまうこと

暗号資産(ステーブルコイン):

トランプ政権が非常に前向きな分野であり、銀行のビジネスモデルにとって新たなリスクと機会をもたらします。価格変動の激しさや過度なリスク集中は避けるべき課題ですが 、長期的にはステーブルコインが銀行預金の代替となり、伝統的な銀行から預金が流出する「戦略的リスク」になり得ると警鐘を鳴らしています。

間接的な経済リスク:

関税が経済成長を阻害し、失業率を押し上げる場合、クレジットカードの延滞率上昇などを通じて銀行に悪影響が及ぶ可能性があります。また、銀行が積極的に融資しているプライベートクレジット市場の急成長も、注視すべき戦略的脅威だと指摘しています。

2008年との比較と今後の見通し

ウルフ氏は、現在の状況が2008年の金融危機前に見られたような無謀な貸付や甘い審査とは異なると強調します。

現状評価:

現在の規制緩和は、あくまでバイデン政権以前の状況への回帰であり、2008年以降に築かれた安全策を完全に解体するものではないため、「2008年のシナリオに戻る道筋にはない」と明確に否定しています。

今後の展望:

今後の銀行の収益性は、イールドカーブのスティープ化によって恩恵を受けると予想されます。格付けの観点からは、特に大手銀行(G-SIBs:Global Systemically Important Banks)が有利な状況にあるとしています。規制当局にとっての課題は、厳しすぎて経済活動を阻害することも、緩すぎてシステミックリスクを生むこともない「適切な中間点」を見つけることだと結論付けました。